逆から見る物理
これまでは,日常生活で起こる身近な現象を物理の視点から見てきました。今回は少し趣向を変えて,その逆の視点から考えてみましょう。
物理的には「正しい」とされている法則が,実は現実の世界では少しだけずれている。そんな現象を取り上げていきます。
振り子の法則
皆さんは,学校の授業で学んだ振り子の法則を覚えていますか?
「振り子の周期は,ひもの長さだけに依存する」
そんなふうに学んだはずです。
周期を \(T\) ,ひもの長さを \(l\) とすると,単振り子の周期は次の式で表されます。
\[T=2\pi\sqrt{\dfrac{l}{g}}\]
この式を見ると,確かに周期はひもの長さ \(l\) と重力加速度 \(g\) だけで決まり,振り子の重さや振れ幅は関係ないように見えます。
実は「近似」の式
しかし,この式には重要な前提条件があります。それは,振れ幅が十分に小さいときに限るということです。振れ幅が大きくなると,ひもの長さが同じであっても,振り子の周期はわずかに長くなってしまいます。
通常の振り子は,支点を中心として円弧を描くように運動します。振れ幅が大きいほど振り子の玉はより高い位置まで持ち上がり,そこから落ちてくる時間も長くなります。つまり,私たちが学校で学んだ振り子の法則は,現実の運動をうまく近似した結果だったのです。
数字が示す理想の振り子
では,振れ幅が違っても,必ず同じ時間で落ちてくるような軌道は存在しないのでしょうか。
ここで面白いのが,数学の視点です。
数学には「どの高さからスタートしても,落下にかかる時間が全く同じになる軌道」が存在します。それがサイクロイド曲線と呼ばれる形です。この曲線は,地面の上を円が転がるとき,その円周上の一転が描く軌道のことです。

この曲線を利用して作られた振り子が,サイクロイド振り子です。研究者の名前からホイヘンス振り子とも呼ばれます。この振り子は振れ幅に関係なく,常に一定の周期で揺れるという理想的な性質を持っています。
いかがでしたか?
もちろん,現実の振り子はそこまで精密に作られているわけではありません。そのため,私たちが日常で目にする振り子は理想的な法則を近似的に再現したものだと言えます。
今回は「物理法則は正しい」という前提を少し疑い,理想と現実の違いに目を向けてみました。当たり前だと思ったことも,見方を変えるだけで全く違う一面が見えてきます。そんなところにも物理や数学の面白さや奥深さが隠れているのかもしれませんね。
今日の公式
\(T=2\pi\sqrt{\dfrac{l}{g}}\)
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