🕌世界史こぼれ話|血塗られた西洋の悪女たち

目次

〜ローマからフランス、東欧まで、史上最凶の四人〜

歴史には、権力の中心で暗躍し、
ときには皇帝すらも翻弄した「悪女」と呼ばれる女性たちがいます。

彼女たちは単なる“小悪党”ではありません。

  • 皇帝の妻でありながら、反逆を企てる
  • 宮廷で毒殺の疑惑が飛び交う
  • 国を動かす宗教戦争の黒幕となる
  • 人間の恐怖の限界を超える残虐行為が伝説化される

など、その存在は歴史の濃い部分、すなわち “権力の闇” と深く結びついています。

今回は、古代ローマから近世フランス、そして東欧まで、
“本当に血塗られた”四人の悪女を取り上げます。
(※プロパガンダで悪女化された女性は第2弾に分けます)


ヴァレリア・メッサリーナ(ローマ帝国)

―淫蕩・陰謀・クーデター…皇后にして破滅の女王

クラウディウス帝の皇后 メッサリーナ は、
古代ローマで「最も淫蕩で危険な女」として名を残す人物です。

権力欲と快楽主義が同居した彼女の行動は、
皇帝クラウディウスを危険にさらし、ローマ全体を巻き込む騒動へと発展しました。


●悪女ポイント

  • 情事はローマ中に知れ渡り、当時の作家スエトニウスは“無制限の欲望”と記録
  • 愛人シリアヌスとともにクーデターを計画
  • 皇帝不在時に勝手に結婚式を挙げる暴挙
  • 発覚後は逃亡もできず、宮中で処刑

●淫蕩と陰謀のスケールが違う

メッサリーナの評判は単なるゴシップではありません。

彼女は皇后の地位を利用し、

  • 側近を買収
  • 敵対者を排除
  • 情事の相手に官職を与える
    など、政治と快楽を完全に私物化していました。

最終的には、愛人とともに皇帝を打倒しようと企て、
ローマ最大級の「皇后クーデター」 として歴史に刻まれます。


●皇帝不在時の「勝手な結婚式」

メッサリーナ最大の暴走は、
皇帝が留守の間、愛人シリアヌスと公然と結婚式を挙げたこと。

ローマ中が騒然となり、
これを聞いたクラウディウスは呆然としたと言われています。

陰謀が明るみに出ると、メッサリーナは逃げもせず失意の中におり、
結局、皇帝の命によって涙ながらに処刑されました。

ローマ史に残る“最も危険で、最も哀れな悪女”です。


小アグリッピナ(ローマ帝国)

―皇帝を作り、皇帝を殺し、皇帝に殺された女

ネロの母、アグリッピナ は、
ローマ史における“悪女の頂点”とも言われる存在です。

彼女は、皇帝クラウディウスを誘惑して皇后となり、
息子ネロを次期皇帝に押し上げるため、
あらゆる策謀を駆使しました。


●悪女ポイント

  • 皇帝クラウディウスを毒キノコで暗殺した疑い
  • ライバル皇子ブリタンニクスを排除
  • 息子ネロ即位後も政治に干渉し“共同統治”状態
  • ネロ暗殺未遂の疑い、母殺しの原因に
  • 最後はネロが送り込んだ刺客に殺害される

●「毒キノコ」で皇帝殺害?

アグリッピナ最大の疑惑は、
クラウディウス帝を毒殺した とされる事件。

伝統的には

  • 毒キノコ説
  • 毒の塗られた羽で喉を刺激した説
    など複数あります。

いずれにせよ、クラウディウスの死でネロが即位したことから、
政治的動機は十分にありました。


●ネロが恐れた“実力者の母”

ネロの皇帝即位後、アグリッピナは

  • 宮中の会議に同席
  • 元老院に命令を下す
  • 政治派閥を操る

と、皇帝と同等の権力を保持。

若いネロは次第に母の存在を恐れ、ついに暗殺を決意します。


●“沈没船暗殺計画”

ネロはアグリッピナ暗殺のため、
床が落ちる仕掛け船(劇場型暗殺) を用意しました。

しかし、計画は失敗。
それでもアグリッピナは取り乱さず、
倒れながら刺客に向けてこう言ったと伝えられます。

「ここを刺せ。ここがネロを産んだ腹だ。」

母と息子の愛憎、ローマ権力の闇が凝縮された歴史的名場面です。


カトリーヌ・ド・メディシス(フランス)

―毒薬と宗教戦争の影に立ち続けた“黒い女主人”

16世紀フランス、
宗教戦争(ユグノー戦争)が激化する中、
宮廷を実質的に支配したのが カトリーヌ・ド・メディシス です。

イタリア・メディチ家の出身で、
“毒殺の噂” と “黒衣の未亡人” のイメージによって、
ヨーロッパの悪女像を象徴する存在として語られます。


●悪女ポイント

  • 宮廷毒殺の疑惑(毒薬師を多く連れていた)
  • サン・バルテルミの虐殺で数千人のプロテスタントが殺害
  • 王子たちの摂政として、実質的にフランス政治を独占
  • ギーズ家・ブルボン家との権力闘争で陰謀の中心に立つ

●「毒殺の女王」というイメージ

カトリーヌが“毒の女王”と呼ばれたのは、
イタリアから医師・薬師を多く宮廷に連れてきたため。

もちろん、全てが事実とは限りませんが、

  • 敵対者が次々に倒れる
  • 都合よく死ぬ人物が多い
    ことから、フランス宮廷は彼女の影に怯えていました。

●サン・バルテルミの虐殺

1572年、パリで起きたプロテスタント大量虐殺事件。
カトリーヌの指示・関与が確実視されており、
歴史に残る最大級の宗教的惨劇のひとつです。

彼女は単なる悪女ではなく、
宗教対立の渦中で“権力のためなら血を選ぶ”政治家でした。


エリザベス・バートリ(ハンガリー)

―“血の伯爵夫人”と恐れられた東欧の闇の女王

東欧ハンガリーに実在した伯爵夫人 エリザベス・バートリ は、
史上最悪の女性連続殺人犯として伝説化された人物です。

“乙女の血を浴びて若さを保った”という逸話が広まり、
世界的なホラーアイコンになりました。


●悪女ポイント

  • 若さの維持のために血を浴びたという伝説
  • 少女を多数誘拐・拷問・殺害した容疑
  • 100名以上とも600名以上とも言われる(議論あり)
  • 史実には不確定要素が多いものの、残虐行為はほぼ確実

●“史実”と“伝説”の境界

バートリに関しては、

  • 実際の虐殺行為(証言多数)
  • 政敵の捏造(貴族同士の抗争)
  • ホラー化・伝説化(後世の創作)
    が入り混じっており、真実は複雑。

しかし、少女を虐待死させた記録は複数存在し、
宮廷での残虐性は否定できません。


●罰は“塔への幽閉”

裁判の結果、バートリは処刑されず、
城の塔に生涯幽閉されました。

外界と完全に隔離された小さな部屋で亡くなり、
今もその塔は“血の伯爵夫人”の象徴として語り継がれています。


🕌世界史こぼれ話|血塗られた西洋の悪女たちまとめ

今回取り上げた4人は、
“誤解された悪女”ではなく、
実際に血や毒を伴う行動が記録される本物の悪女たち です。

ローマの宮廷スキャンダルから、
フランス宗教戦争、
東欧の修道荘での惨劇まで。

悪女とは、

  • 権力
  • 愛憎
  • 陰謀
  • 恐怖

この4つが揃った場所に必ず現れます。

第2弾では、
「歴史に悪女にされてしまった女性たち」
をご紹介します。

ブラッディ・メアリー、アン・ブーリン、マリー・アントワネット、
そしてルクレツィア・ボルジア。

“悪女”の本当の姿を見抜く世界史こぼれ話、続編もぜひお楽しみに。

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